創業1年目の資金管理術:黒字倒産を防ぐ基本的な考え方と実践方法

創業1年目、売上は順調に伸びているのに、なぜか月末になると支払いのための現金が足りない…。
そんなヒヤリとした経験はありませんか?

実はこれ、多くの創業者が陥る「黒字倒産」という非常に怖い落とし穴の入り口なのです。
利益が出ているから安心、というのは大きな誤解です。

こんにちは。
元銀行員で、現在は大阪・堺市で中小企業専門の経営コンサルタントをしております、吉田真一と申します。
銀行員時代から今まで、私は数多くの経営者様の資金繰りのご相談に乗ってきました。

この記事では、なぜ利益が出ていても資金が回らなくなるのか、その根本的な原因を「お金の流れ」という視点から読み解いていきます。
そして、創業1年目を乗り切り、事業を成長軌道に乗せるための具体的な資金管理の考え方と行動を、専門用語をできるだけ使わずに分かりやすく解説します。

この記事を読み終える頃には、あなたも資金管理の基本を理解し、黒字倒産を防ぐための具体的な一歩を踏み出せるようになっているはずです。

よくある資金管理の誤解と現実

黒字=安心ではない

多くの経営者が最初に抱く誤解が、「決算書で黒字なら会社は安泰だ」というものです。
しかし、これは危険な思い込みです。

会計上の「利益」と、あなたの会社の通帳にある「現金」は、全くの別物だと考えてください。
例えば、100万円の商品が売れたとしても、その代金の入金が2ヶ月後であれば、その2ヶ月間、あなたの手元に現金は1円も増えません。
これが「利益と現金のズレ」の正体であり、黒字倒産の最大の原因です。

「なんとかなる」は経営に通じない

「支払いが少し遅れても、来月には大きな入金があるから大丈夫だろう」
創業期の忙しさから、どんぶり勘定になってしまう気持ちは痛いほど分かります。

しかし、この「なんとかなる」という希望的観測こそが、経営を危機に陥らせます。
資金繰りは、一度狂い始めると立て直すのが非常に困難です。
支払いの遅延は会社の信用を失墜させ、あっという間に事業継続が難しい状況に追い込まれてしまいます。

よくある失敗パターンとその背景

売上先行型の資金ショート

特に注意したいのが、事業が急拡大している時です。
売上が増えれば、それに伴って仕入れや外注費、人件費などの支出も増えます。

失敗例:Web制作会社のケース
大口案件を受注し、売上は前月比200%を達成。
しかし、外注デザイナーへの支払いが先で、クライアントからの入金は2ヶ月後。
結果、手元の現金がなくなり、給与の支払いが遅延しかけた。

このように、売上が増えるほど現金の支出が先行し、入金までの期間を乗り切れずに資金がショートしてしまうのです。

借入タイミングの見誤り

「手元の現金が完全になくなってから銀行に相談しよう」と考えているなら、それは大きな間違いです。
銀行は、「返済能力がある会社」にお金を貸すのが仕事です。

資金が底をつき、返済が難しいと判断されれば、融資を受けるのは極めて困難になります。
本当に資金が必要になる前に、余裕を持った状態で相談に行くことが鉄則です。

黒字倒産を防ぐための基本的な考え方

資金繰りとは何か?利益との違いを理解する

では、どうすれば黒字倒産を防げるのでしょうか。
その答えは「資金繰り」を正しく理解することにあります。

  • 利益:過去の一定期間の「成績表」。会計ルールに基づいて計算された数値。
  • 資金繰り:未来を含めた「現金の出入り」そのもの。会社の生命線となるリアルタイムのお金の流れ。

極端な話、会計上は赤字でも、手元に現金があれば会社は潰れません。
逆に、いくら黒字でも、支払日に現金がなければ倒産してしまうのです。
この違いを、まずはっきりと認識してください。

キャッシュフローの全体像を掴む

キャッシュフローとは、文字通り「キャッシュ(現金)のフロー(流れ)」のことです。
会社のお金の動きは、大きく3つに分類できます。

  1. 営業キャッシュフロー:本業の商売でどれだけ現金が増減したか
  2. 投資キャッシュフロー:設備投資などでどれだけ現金を使ったか
  3. 財務キャッシュフロー:銀行からの借入や返済で現金がどう動いたか

創業期にまず意識すべきは、本業でしっかり現金を稼げているか(営業キャッシュフローがプラスか)という点です。
ここがマイナスだと、借入に頼らなければ事業を続けられない危険な状態と言えます。

資金管理は“呼吸”である:日常的に数値を把握する習慣

私はいつも、クライアントに「資金繰りは企業の呼吸と同じです」とお伝えしています。
息を止めて全力疾走できないように、お金の流れを無視して事業を成長させることはできません。

毎日、会社の通帳残高を確認していますか?
月に一度でも、来月の支払予定額を把握していますか?

特別なツールは必要ありません。
まずは毎日、会社の現金の残高を確認し、お金の増減に敏感になること。
この小さな習慣が、あなたの会社を危機から救う第一歩となるのです。

実践!創業1年目の資金管理術

まずは「現金の見える化」から始めよう

難しく考える必要はありません。
まずは、向こう1ヶ月の現金の出入りを書き出すことからスタートしましょう。
エクセルやスプレッドシート、最悪ノートでも構いません。

  • 入金の予定:いつ、誰から、いくら入金されるか?
  • 支出の予定:いつ、何に、いくら支払うか?(家賃、給与、仕入、借入返済など)

これをやるだけでも、「来月のこの週は支払いが集中して危ないな」といったことが事前に見えてきます。
これが資金管理の基本です。

月次資金繰り表の作成と運用

慣れてきたら、もう少し本格的な「資金繰り表」を作成してみましょう。
資金繰り表とは、将来のお金の出入りを予測し、現金残高がどう推移していくかを確認するための計画書です。

項目4月5月6月
前月繰越100万円50万円80万円
収入(入金)
売上入金200万円250万円220万円
支出(出金)
仕入支払100万円120万円100万円
人件費80万円80万円80万円
家賃・経費70万円70万円60万円
収支-50万円-20万円-20万円
翌月繰越50万円30万円60万円

※上記は簡易的なサンプルです

ポイントは、売上が発生した月ではなく、実際に入金される月に金額を記入することです。
これを最低でも3ヶ月先まで作成することで、資金がショートしそうな時期を事前に察知し、対策を打つことができます。

売掛金・買掛金の管理で資金流出をコントロール

ビジネスの基本は「入金は早く、支払いは遅く」です。

  • 売掛金(売った代金):請求書はすぐに発行し、入金が遅れている取引先にはすぐに連絡しましょう。回収漏れは致命傷になります。
  • 買掛金(仕入れた代金):支払いサイト(支払日までの期間)を可能な範囲で長くしてもらえるよう、取引先と交渉することも重要です。

これらの債権・債務を一覧表で管理し、いつ入金され、いつ支払うのかを常に把握しておくことが大切です。

支出の優先順位を明確にする:固定費 vs 変動費

支出には、売上に関わらず毎月必ずかかる「固定費」と、売上に比例して増減する「変動費」があります。

  • 固定費:家賃、人件費、リース料など
  • 変動費:原材料費、仕入原価、外注費など

コスト削減を考えるなら、まず手をつけるべきは固定費です。
変動費を無理に削ると、商品の品質低下やサービスの質の悪化につながり、かえって売上を落とす危険性があります。

銀行との付き合い方:借りる前にやるべきこと

元銀行員として、これだけは断言できます。
銀行はあなたの「事業のパートナー」です。

  1. 会社の状況を定期的に報告する:試算表や先ほど作成した資金繰り表を持って、「今、事業はこういう状況です」と定期的に報告に行きましょう。良い時も悪い時も共有することが信頼関係の基礎となります。
  2. 事業計画で熱意と数字を語る:なぜお金が必要なのか、借りたお金でどうやって売上を伸ばし、どうやって返済していくのか。具体的な数字に基づいた事業計画書が、銀行員の心を動かします。
  3. メインバンクを決める:複数の銀行と付き合うのは良いことですが、「ここがうちのメインバンクです」という銀行を一つ決め、密な関係を築くことが、いざという時に助けを得るための鍵となります。

事例で学ぶ:創業初期の資金管理に成功したケース

ケース1:売上先行で失敗→回収サイクルを改善してV字回復

大阪市内でWeb制作業を営むA社。
創業半年で大型案件を受注し売上は急増しましたが、外注費の支払いが先行し資金ショート寸前に。
そこで、クライアントに交渉し、着手金として半金を先にもらう契約に変更。
これによりキャッシュフローが劇的に改善し、安定した経営基盤を築くことができました。

ケース2:利益が出ていたが資金ショート→月次管理で持ち直し

アパレルECサイトを運営するB社。
商品は売れ、帳簿上は黒字でしたが、在庫の仕入れで常に現金が不足気味でした。
私のアドバイスで月次の資金繰り表を作成し始めたところ、3ヶ月後に資金が底をつくことが判明。
すぐに金融機関に相談し、運転資金の融資を受けることで危機を回避。
今では在庫管理と資金繰り表が経営の羅針盤になっています。

ケース3:地元商店街のカフェが銀行融資を有効活用した話

私の地元、堺市の商店街でカフェを開業したCさん。
開業当初から地元の信用金庫に足繁く通い、売上報告や事業の夢を語り続けていました。
1年後、隣の店舗が空いた際に「お店を拡大したい」と相談したところ、担当者はCさんの熱意と堅実な経営を評価。
スムーズに設備投資の融資が実行され、今では地域で一番の人気店になっています。

まとめ

黒字倒産は、決して他人事ではありません。
しかし、その原因はシンプルで、「資金感覚のズレ」から起こるものがほとんどです。

この記事でお伝えしたかった要点は以下の通りです。

  • 利益と現金は別物。黒字だから安心、という考えは今すぐ捨てること。
  • 資金繰りとは、未来の現金の動きを管理すること。企業の「呼吸」と同じくらい重要。
  • まずは1ヶ月のお金の出入りを書き出す「見える化」から始めよう。
  • 資金繰り表を作成し、3ヶ月先の現金残高を予測する習慣をつけること。
  • 銀行はパートナー。困る前に、良い時からこそ相談に行き、信頼関係を築くこと。

「数字の習慣化」が、あなたの会社を強くする経営の第一歩です。
難しい会計知識は後からで構いません。
まずは、自分のお金の流れに毎日向き合うことから始めてみてください。

あなたの会社の資金繰り、今すぐ見直してみませんか?
経営者仲間として、資金管理の第一歩を一緒に踏み出しましょう。
もし一人で悩んでいるなら、いつでも専門家を頼ってください。

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